一休さん

>

 
 
———–
 
 
 
+目次

かあさま

 こどものとき 一休いっきゅうさんは、千菊丸せんぎくまるという なまえでした。
 ある はるのの ことです。千菊丸せんぎくまるは うばに つれられて きよみずでらに おまいりに いきました。
 おてらの にわは さくらの はなが まんかいでした。
 はらはらと ちる さくらの はなびらの したでは、おばあさんや おかあさんに つれられた どもたちが、あそびたわむれています。
「きれいだなあ ばあや。」
 しばらく はなに みとれていた 千菊丸せんぎくまるは、ふと、むこうの いしだんの ところに いる おやづれの こじきを みて、ふしぎそうに たちどまりました。
 きたない きものを きた こじきの ははおやが、いつつかむっつぐらいの どもを そばに すわらせて、おもちゃを やっているのでした。
 やがて 千菊丸せんぎくまるは うばの を ひいて、たずねました。
「ばあや、あれなあに。」
「おやの こじきです。まずしいので さんけいの ひとに ものを もらって たべているのです。」
「そうじゃあないの、ばあや、千菊せんぎくは あの おんなの こじきは あの どもの なんじゃと きいているのだよ。」
「あれは、おかあさんと どもです。」
「ふうーん。」
 と、千菊丸せんぎくまるは いかにも ふしぎそうです。
「こじきにも おかあさまが あるの、ばあや。」
「はい。こじきにも おかあさまが いますよ、千菊せんぎくさま。」
「ふしぎだ なあ。」
 千菊丸せんぎくまるは かわいい くびを かしげて、しばらく じっとして いましたが、
「あんな きたない こじきにも おかあさまが あるのに、千菊せんぎくに  どうして おかあさまが ないのだろう。ばあや、どうして 千菊せんぎくには おかあさまが ないの。」
 と、ばあやの を ぎゅっと にぎりしめて いいました。
「ええ、千菊せんぎくさまには……千菊せんぎくさまには……。」
 うばは、はたと こたえに つまって しまいました。
 と いうのは、つぎの ような ふかい わけが あるからでした。

ちちは てんのう

 一休いっきゅうさんの うまれたのは おうえいがんねん、いまから ざっと 五ひゃく六十ねんばかり まえの ことです。
 おとうさまは ごこまつてんのうで、おかあさまは いよのつぼね と いいました。
 ほんとうならば 一休いっきゅうさんも てんのうの おうじさまとして、きゅうていで そだてられる はずでしたが、おかあさまが、わるものの ざんげんで てんのうの おそばに いられなくなったので、一休いっきゅうさんも おかあさまとも わかれて きょうのみやこの かたほとりに、うばと ふたりで すむことに なったのです。
 おかあさまも きょうのみやこに すんでいましたが、一休いっきゅうさんは うまれたばかりで おかあさまと わかれわかれに なったので、おかあさまの あることさえ しりませんでした。
 それで みんな おとうさまも おかあさまも あるのに、じぶんだけ うばと ふたりきりなのは どうしてだろうと、いつも かなしく おもって いたのでした。
 それが こじきのおやこの むつまじい ありさまを みて、きゅうに むねが こみあげてきたのでした。
 一休いっきゅうさんが、あんまり かなしそうに おかあさまの ことを きくので、うばも、
「いっそ おかあさまが おなじ きょうのみやこに いることを はなして、おかあさまに おあわせして あげようか。」
 と、おもいましたが、また おもい なおして、
「いやいや、それはいけない。」と、そっと なみだを ぬぐって、
千菊せんぎくさま、ぼっっちゃまにも おかあさまが あります。けれども、いまは とおいとおい ところに いらっしゃるので、とても あえません。」と、いいました。
「まろにも おかあさまがあるの!」
 はじめて おかあさまの ことを きいた 一休いっきゅうさんは、きらきらと めを かがやかして、きっと うばの かおを みあげると、
「ばあや、まろは どんな とおい ところにも いく。おかあさまに あわして ください。」と、ねだりました。
「とても、千菊せんぎくさまの いけるところでは ありません。」
 うばも こまって しまいました。そして、
千菊せんぎくさまが これから うんと がくもんして、えらいひとに なったら、きっと おかあさまが あいにきて くださります。」と、そのは、やっと なだめて かえりました。

ゆきのあさ

 こういう わけですから、うばも 一休いっきゅうさんを りっぱな ひとに そだてたいと とても しんぱいしました。
 一休いっきゅうさんは どもの ときから 一をきいて 十をしる、と いうほど りこうな でしたが、また たいへんな いたずらっでした。
 それが うばの しんぱいの たねでした。
 ある はるの ことでした。
 きょうのみやこに めずらしく おおゆきが ふりました。
 いたずらッの 千菊丸せんぎくまるは おおよろこびです。まるで いぬころの ように はだしで にわに かけだしたり、ゆきを なげつけたり、まどを やぶくやら、ろうかを ゆきだらけに するやら おおあばれです。
 うばが みるに みかねて、
千菊せんぎくさま、そんなに いたずらを する は、りっぱな ひとに なれません。」
 と、たしなめて、
「そんなひまが あったら ちと べんきょうなさい。むかし、すがわらのみちざね と いう えらいかたは、七つのとき りっぱな うたを おつくりに なりました。千菊せんぎくさまも、おうたでも おつくりなさい。」
「うたを つくるより、ゆきなげの ほうが、おもしろいわい。」
「いけません。おおきくなって、ごてんに あがっても、うたが つくれないようでは はじを かきます。」
 それをきくと、一休いっきゅうさんは きゅうに まじめに なって、
「ばあや、その みちざねの つくった うたは、どんな うた だい。」
 と、ききました。

「うるわしき べにの いろなる うめのはな
   わこが かおにも つけべかりけり

 と、いうのです。うめのはなを みて おうたいに なったのです。」
 うばが いうと、一休いっきゅうさんは、ちょいと、おどけた かおをして、
「そんな うたなら、いくらでも つくれらあ。」
「まあ、千菊せんぎくさまに できますかしら。」
「できるよ。ばあや、おどろくな。」
 一休いっきゅうさんは、これは どうだい、といいながら、

ふるゆきが おしろいならば にといて
  おくろの かおに つけべかりける

 と、すらすら、と、うたいました。
「まあ!」と、うばは びっくりしました。
 すがわらのみちざねの つくったうたの、いみは こうです。
 むかし きゅうちゅうに いる、わかいひとは、おとこでも うすく おしろいや ほおべにを つけていました。
 わこ と いうのは わたし と いうことです。みちざねはあかい、うめのはなを みて、あの うつくしい うめのはなの いろを わたしの かおに つけたい と うたったのです。
 それで、一休いっきゅうさんの うたですが、おくろ と いうのは うばの ことで、この うばの かおは くろいので、みんなが うばのことを「おくろさん、おくろさん。」と、よんでいました。
 それで 一休いっきゅうさんは、しろい ゆきを うばの くろい かおに つけてやろうと、ふざけたのでした。
「まあ、ひどい。」
 うばは、あきれてしまいましたが、この あたまの よさには、すっかり かんしんしてしまって、
千菊せんぎくさまは、きっと えらくなります。」と、おおよろこびでした。

むっつの ひなそう

 一休いっきゅうさんは、むっつのとき いなりやまの きたに ある あんこくじと いう おてらに はいって、ぼうさんに なることに なりました。
 これは おかあさまの いよのつぼねの かげながらの とりはからい でした。
 と いうのは、そのころは くにが みだれていて、さむらいや きゅうてい の ひとたちも おたがいに ねたみあい うたぐりあって いましたが、一休いっきゅうさんの おかあさまは、もし じぶんを ざんげんして、きゅうていを おいはらった ひとたちが、一休いっきゅうさんを ねらって、ころして しまったりするかも しれないと しんぱい したからです。
 けれども ごこまつてんのうの おんとして うまれた 一休いっきゅうさんを なんとかして、えらくしたいと おもいました。
 そのころ、えらくなるには さむらいに なるか、おぼうさんに なるかしか、なかったのです。
 それで、おかあさまは 一休いっきゅうさんを さむらいに して、ころしたり ころされたり するよりは おぼうさんに しよう、と うばにも はなして、一休いっきゅうさんを あんこくじの ひなそうに したのでした。
 あんこくじの ひなそうに なった 一休いっきゅうさんは、しゅうけんと いう なまえを もらって、まいあさ おしょうさまから おきょうを ならいましたが、りこうなので すぐおぼえます。
 ことに その とんちの いいことは、大人おとなも したを まく ばかりでした。
 あんこくじには、ななつ やっつ ぐらいの こぞうが 十にんばかりも いました。一休いっきゅうさんは そのなかで いちばん としした でしたが、いちばん りこうで、とんちが ありました。
 つぎに、一休いっきゅうさんの とんちばなしを しましょう。

みずあめと どくやく

 あるの ことです。ぞうたちが みんなで ひたいを あつめて ひそひそばなしを していました。
「おしょうさまが わたしたちに かくれて、まいにち こっそり みずあめを なめて いるよ。」
「みずあめ――あまいだろうなあ。なめたいなあ。」
「どこに あるの。」
「おしょうさまの いまの とだなの うえに、ほら、かべつちいろの かめが あるだろう。あの なかに あるんだよ。」
「ほんとに みたのかい。」
「ほんとさ。」と いって、を くるくる まわして みせたのが、てつばいと いう、いたずらぞうです。てつばいは いかにも てがらがおに、
「わたしが ゆうべ しょうじの かみに あなを あけて、おしょうさまの みずあめを なめて いるのを、そっと のぞいて みたんだもの。」
「ふーん。」と、ぞうたちは したなめずりを しました。すると てつばいは、
「おしょうさまだけ なめるなんて ずるいや。わたしらにも すこし なめさせて もらおうではないか。」
 と、いいだしました。
「そう しよう、そう しよう。」
 みんな さんせいです。
「だれか いって おしょうさまに たのんで こいよ。」
「おこられるよ。いやだよ。」
 みんな しりごみ します。
「しゅうけん、おまえ いってこいよ。」
 てつばいは、いちばん とししたの 一休いっきゅうさんに おしつけようと しました。
「それが いい、それが いい。しゅうけん いってこいよ。」
 みんな そう いいます。
「うん そうか。それでは ちょっと いって きいてくる。」
 いたずらっでも とんちが あっても、まだ むじゃきな 一休いっきゅうさんは、すぐ たちあがって、おしょうさまの へやに でかけていきました。
 おしょうさまは ぼんやり にわを ながめていました。
「おしょうさま。」
 と、一休いっきゅうさんが しきいの そとに を つきました。
「なんじゃ。」
 と、おしょうさまが 一休いっきゅうさんを ふりかえりました。
「おしょうさま、みずあめを なめさせて ください。」
「なんじゃと。」
「たなの うえの かべつちいろの つぼの なかにある みずあめを、すこしずつで いいですから わたしたちに なめさせて ください。」
 おしょうさまは びっくりして、まじまじと 一休いっきゅうさんを みつめました。
「たれが そんな ことを いった。」
「みたものが あります。おしょうさま、大人おとなの おしょうさま ばかり なめて、どもの わたしたちに なめさせない なんて、おしょうさま ずるいや。」
「うん、そうか。ゆうべ しょうじに あなを あけたのは おまえじゃな。」
「わたしでは ありませんが、たしかに おしょうさまが みずあめを なめているのを みたものが あります。」
「うん、そうか。」
 おしょうさまは ひとつ、こらしめて やろうと おもって、
「みんなを ここに よんでこい。」と、いいました。
 そんな こととは おもいも よらない 一休いっきゅうさんは、さっそく みんなの ところに もどってきて、
「おーい、みんな、こいよ。おしょうさまが みずあめを くださるぞっ!」と、おおごえに さけびました。
「そうか。くださるか。」
「みんな いこう。」
 ぞうたちは おおよろこびで、おしょうさまの へやに とんでいきました。
 ずらり おしょうさまの まえに ならんだ ぞうたちを、じろり みわたした おしょうさんは、
「みんなに いって おくことがある。よく きいておけ。」と、おごそかに いいました。
 これは へんだぞ……ぞうたちは かおを みあわせまた[#「みあわせまた」はママ]。おしょうさまは いいました。
「じつは この かめの なかにある みずあめの ような ものは、ほんとうは、みずあめでは なくて、てんじくから とうらいした ちゅうふうの くすりじゃ。」
 てんじくは いまの インドです。ぶっきょうの わたってきた ところです。この くすりは ぶっきょうと いっしょに にっぽんに わたって きたのでしょう。
「あれッ!」と、みんなを ぱちくり させました。
「いいか。あれは ちゅうふうの くすりじゃ。ちゅうふうという びょうきは どもには かからぬ、わしの ような ろうじんにだけ ある びょうきじゃ。いいか、よく きけ。あの くすりは、ろうじんの ちゅうふうには よく きくが、どもが なめたら いのちが なくなる。まちがっても あの くすりを なめたりするでは ないぞ。」
「へんな ことに なった もんだなあ。」
「わかったか――わかったな。」
「はい。」
「わかったら、でて いって よろしい。」
 へんだなあ と、おもいながら みんな はんぶん べそを かいて、おしょうさまの へやを でて いきました。

ぬ つもりで!

 なかでも いちばん へんだなア、と おもったのが、いちばん りこうな 一休いっきゅうさんでした。
 つぎの おしょうさまは、どこかの ほうじに でていって、るすでした。
「よし、この あいだに あの かめの なかの ものが みずあめか どくか、ためしてみよう。」
 いたずらものの 一休いっきゅうさんは したなめずりを して おしょうさまの へやに しのびこんで いきました。
 さっそく たなの まえに たちましたが、あいにく たなが たかくて、どもの 一休いっきゅうさんには てが とどきません。一休いっきゅうさんは そばに あった ちゃだんすを ひきずってきて、どっこいしょ、と そのうえに のると、かめに りょうてを かけ、そろそろと ひきおろそうと しました。
 が、かめが おもいものですから つるりと てが すべって、あッ と おもう まも あらばこそ、かめは どしーんと、一休いっきゅうさんの ぼうずあたまの うえに おちました。
「しまったッ!」
 そう さけんだ 一休いっきゅうさんは、かめと いっしょに すってんころりと ちゃだんすの うえから ころげおちました。
 その ひょうしに、一休いっきゅうさんは あたまから、どろどろと みずあめを かぶって しまいました。が、一休いっきゅうさんは みずあめの なかに つかりながら、ぺろぺろと みずあめを なめています。
「あまい あまい。」
 やっぱり ちゅうふうの くすりだなんて うそだ。くすりなら にがい はずだ! 一休いっきゅうさんは むちゅうです。
 が、はらいっぱい みずあめを なめてから、一休いっきゅうさんは、「これは しまった ことをした。」と、あおく なりました。
 一休いっきゅうさんは そっと なめて、しらないふりを しているつもりだったのに、こんなに ありたけ こぼして しまっては、おしょうさんに わかって おおめだまを くうに きまっている! 一休いっきゅうさんは おおあわてに あわてて こぼれた みずあめを ふきとりましたが、とても どもの ちからでは ふききれません。
 そればかりではなく、ふと みると、そばには おしょうさまの たいせつに している おちゃのみぢゃわんが こなごなに こわれて いるのでした。
 すると うんの わるいときには しかたの ないもので、そこに ガラリと へやの しょうじが あいて、おしょうさまが かえってきました。
「わっ!」
 一休いっきゅうさんが あめだらけの あたまを かかえると、これを みた おしょうさまは、
「しゅうけん、なに しとるのじゃ。」と、おおごえで しかりました。
「は、はい、はい。」
 一休いっきゅうさんは を しろくろ させています。
「なにを しとると いうのじゃ。」
 一休いっきゅうさんは わーんと なきだして しまいました。なきながら 一休いっきゅうさんの あたまには、一つの とんちが おもい うかびました。
「おしょうさま、おしょうさま。わたしは おしょうさまのだいじな だいじな おちゃわんを こわして しまいました。それが かなしくて わたしは んで おわびしようと おもって、こんなに たくさん おしょうさまの くすりを いただきましたが、ちっとも しねません。」
 そう いうと、一休いっきゅうさんは りょうてで かおを おおって、まえよりも はげしく わんわん なきだしました。
「なに、ちゃわんを わったと……。」
「そうです。おしょうさまの おるすの あいだに おへやを そうじして おこうと おもって、おちゃわんを わりました。おしょうさま、ああ、わたしは しにたい、しにたい。」
 一休いっきゅうさんは そう いいながら、また こぼれた みずあめを ぺろぺろと なめました。
 おしょうさまは あきれかえって、一休いっきゅうさんを みつめていました。そんなことは うそに きまっています。
「うそじゃ。」
 と、おしょうさまは しかりました。
「ちがいます。うそでは ありません。」
「そうか。」
 じっと かんがえこんだ おしょうさまは、とつぜん あっはっはっは……と、わらいだして しまいました。そして、いいました。
「しゅうけん、わしが わるかった。これは わしが おまえたちを だました、ほとけの ばちと いう ものじゃ。」
 それを きくと、こんどは 一休いっきゅうさんが おしょうさまの まえに りょうてを ついて、
「おしょうさま、わたしが わるうございました。わたしは うそを つきました。」
 と、あやまりました。
「いいや、しゅうけん。はじめに うそを ついたのは わしじゃ。わるいのは この わしじゃ。」
「いいえ、わたしが わるうございました。」
「いや、わるいのは わしじゃ。」
 一休いっきゅうさんと おしょうさまは こんどは おたがいに じぶんが わるい、と いいっこです。
「わかった、わかった。」
 おしょうさまが、とうとう まけて しまいました。そして、一休いっきゅうさんに、
「しゅうけん、おまえの とんちには おどろいた。これからは わるいことを するなよ。わるいと きづいて さっそく あやまったのは、いい こころがけだ。」と、やさしく いいきかせました。

かたわれの つき

 なにしろ どもですから、一休いっきゅうさんは たべものと なると、むちゅうに なることが あります。
 そのとしの としの くれの ことでした。
 くれの ことなので、おしょうさまは 今日きょうは ぞうたちを みんな つれて たくはつに でかけました。
「しゅうけん、今日きょうは おまえが るすばんだ。きを つけて おるすを するんだよ。」
 おしょうさまは 一休いっきゅうさんに るすばんを いいつけました。
 すると、おしょうさまたちが でかけて だいぶ たってからの ことです。
「ごめん ください。ごめん ください。」
 と、おしょうさまの おへやの ほうで ひとの こえがしました。
「おや、さっそく おきゃくさまだな。」
 たった ひとり、あとに のこされて ぼんやり していた 一休いっきゅうさんは、さっそく とびだして いきました。
今日きょうは、おしょうさんは るすかな。」
 うらぐちに たって いるのは、あんこくじの だんかの もとべえさんでした。
 おいものとんやの もとべえさんは、かずおおい だんかの なかでも いちばん この おてらに よくして くれる だんかです。今日きょうも たくさんの おもちを ついて、でっちの ちょうまつに せおわせて きたのでした。まるい まるい まんげつの ように まるい かがみもちです。
「これは これは、もとべえさんですか。あいにく、おしょうさまは たくはつに でかけて おるすです。」
 一休いっきゅうさんが ていねいに いうと、もとべえさんは、
「それは かまいません。今日きょうは としの くれで、おもちを ついたので、もって きました。どうぞ、おしょうさまが おかえりに なりましたら、ほとけさまに あげてください と いって ください。」
 と、いって、でっちの ちょうまつに せおわせてきた たくさんの おもちを おいて いきました。
「うまそうだなア。」
 つつみを といて、一休いっきゅうさんが ちょっと さわってみると、おもちは まだ ほっかりと あたたかくて、まるで ごむまりの ように ぷかぷか していました。
 一休いっきゅうさんは ごくん と、つばを のみこみました。むちゅうで、一つの おもちに かじりつきました。
「うまいなア。」
 一休いっきゅうさんが おもわず にっこりした ときです。がたがたと おもてに ひとの あしおとがして、おしょうさまたちが かえってきました。
「あっ、たいへんだ。」
 一休いっきゅうさんは あわてて おもちを のみくだそうとします。が、あんまり たくさん、いっぺんに おもちを くちの なかに いれたので、なかなか のみくだすことが できません。
 一休いっきゅうさんが を しろくろ させて いると、さきに きた あにでしが、
「しゅうけん、また いたずらを したな。おしょうさまに みつかると おおめだまだぞ。」
 と、一休いっきゅうさんの せなかを たたいてやりました。
「うわあ、くるしい。」
 一休いっきゅうさんが やっと おもちを のみくだした ときでした。あとから はいってきた おしょうさまは この ようすを みて くすくす わらいながら、一休いっきゅうさんの まえに、かけた かがみもちを だして、
「しゅうけん、しゅうけん、十五やの つきは まんまるなのに これは どうしたことだ。」
 と、なぞを かけました。
 すると 一休いっきゅうさんは、にこりとして、
「くもに かくれて ここに はんぶん。」
 と、こたえながら じぶんの はらを ゆびさしました。
 これは 一つの うたになります。

十五やの つきは まんまる なるものを
  くもがくれして ここに はんぶん

 おしょうさまのは かみの く、一休いっきゅうさんの は、しものくです。
 おしょうさんは、この 一休いっきゅうさんの とんちに すっかり かんしんして しまって、
「しゅうけん、でかした でかした。」
 と、を たたいて 一休いっきゅうさんを ほめ、
「さあ、おもちを たくさん あげるから、みんなで たべなさい。」
 と、たくさんの おもちを くれました。
「しゅうけん、うまく やったな。また たのむぞ。」
 あにでしたちも おおよろこびで、おもちに、ぱくつきました。

かわもんどう

 あんこくじの おぼうさんに なって 二三ねん たった ときでした。
 はたやじくさい という ひとが、まいばんの ように あそびに きて、おしょうさまと おそくまで はなしあったり、ごや しょうぎを していきました。
 このひとは ながさきで うまれたのですが、おとうさんは オランダじんでした。いまで いえば アイノコです。その おとうさんが、オランダに かえる とき、にしきを おる ほうほうを おしえて いきました。じくさいは きょうとに きて はたやを ひらいて、たいへん はんじょうしました。
 これが、いまでも なだかい にしじんおりの もとです。
「あれ、じくさいの やつ、また きたよ。」
 ある、あにでしの てつばいが げんかんの ほうを みながら、そう いいました。
「ほんとだ。こんやも また おそくまで いるんだろうな。あいつが くると、わしらが いつまでも ねられなくて よわるよ。」
 ぞうたちは おゃきくさまの[#「おゃきくさまの」はママ] いるうちは ねるわけに いかないので、じくさいが くると、みんな いやがるのでした。
「なんとかして あの じくさいめが、こない ように する くふうは ないものかなあ。」
 ぞうたちは みんなで こんな そうだんを はじめました。
 一休いっきゅうさんも これは どうかんです。ついと、みんなの まえに すすみでると、
「わたしが じくさいさんの こなくなる まじないを しましょう。」
 と、いいだしました。
「ほんとに そんなことが できるかい。へんな ことを すると、また おしょうさまから おおめだまだよ。」
 あにでしたちは しんぱいそうです。
「だいじょうぶです。もし しくじったら、みんな わたしが つみを きます。」
 一休いっきゅうさんは とても じしんが ありそうです。
「それじゃ、たのむよ。うまく やってくれよ。」
 よくじつの ゆうがたの ことです。一休いっきゅうさんは、もう じくさいさんが やってくるころだな、と おもいながら、はんしを 五まいも つぎたして、すみ くろぐろと、おおきな じで、

かわを きたるもの てらの なかに はいるべからず

 と、かいて、げんかんに はりつけました。
 まもなく、せかせかと げたの おとを させながら、じくさいさんが やってきました。
 アイノコの じくさいさんは いつでも、けものの かわで つくった どうぎを きているのです。
「どうするかな、じくさいさん。」
 一休いっきゅうさんや ぞうたちは しょうじの かげに かおを あつめて、じっと じくさいさんの ようすを のぞいていました。
 おしょうさまと なかよしの じくさいさんは、いつでも あんないも こわず、ずかずかと げんかんを はいってきます。
 ふと みると、げんかんに なにか かいてあります。
「おや、なんだろう。」
 じくさいさんは、たちどまって、じっと、はりがみを ながめて いましたが、すぐ ハハハ……と おおごえで わらって、
「ははは……ぞうども、わしが いつも よる おそくまで いるもんだから、こんな いたずらを しおったな。」
 と いうと、そのまま おくに はいろうと します。
 そのとき いきなり 一休いっきゅうさんが とびだしました。
「この はりがみが みえないのですか、じくさいさん。」
「ははあ、これは しゅうけんぼうずかい。はりがみは よみましたよ。」
 じくさいさんは、にやにや わらって います。
「よんだなら、なぜ はいってきた。」
ぞうさん、どうして かわを きたものが はいって いけないのかね。」
「おてらに けだものの かわを きて くると けがれます。これは ほとけさまの おしえです。かえって ください。」
「はっはっは……ぞうさん、あんたは、りこうものだと ききましたが、やっぱり まぬけですね。」
「どこが まぬけです。」
「では、ききますが、てらにも じこくを しらせる たいこが ありましょう。たいこは けだものの かわを はって あるでしょう。わたしも けものの かわを きて いますから、たいこの ように、ずっと おくまで とおりますよ。はい、ごめんなさい。」
 じくさいさんは そう いうと、ちらと 一休いっきゅうさんを からかうような わらいを みせて、おくに いこうとしました。
 すると 一休いっきゅうさんは、なにを おもったか、ちょこちょこと じくさいさんに さきまわりして、ほんどうから たいこの ぱちを[#「ぱちを」はママ] もって くると、いきなり じくさいさんの はげあたまを ぽかぽかと たたきました。
「これ、なにを する、ぞうさん。」
 じくさいさんは、一休いっきゅうさんを にらみつけて おこりました。が、一休いっきゅうさんは すましたもので、
「じくさいさんは、たいこの ように おくに とおると いったでは ありませんか。たいこと おなじなら いくら たたかれても、もんくは ないでしょう。」
 と、いって、また ポカリ。
「まいった。」
 すると じくさいさんは きゅうに あともどりすると、ぬいであった げたを つかんで、はだしで にげていきました。
「うまい、うまい、しゅうけん――ああ、むねが すーッと した。」
 あにでしたちは を たたいて おおよろこびです。

书籍信息:

https://www.aozora.gr.jp/cards/002049/files/60426_73479.html

发表评论